小さな星がほらひとつ

【まとめ】クラシコム経営判断

北欧暮らしの道具店
青木さん(48歳)

プラットフォームとして3つの側面を持つ。
①顧客のライフスタイルに寄り添う商品を販売するD2C。
②顧客とのエンゲージメントを深めるコンテンツを多様なチャネルで届けるコンテンツパブリッシャー。
③ブランド価値とノウハウを活用し、クライアントの課題解決につなげるブランディングエージェンシー

◆北欧暮らしの道具店が持つ強みは、顧客にとって魅力的な世界観を開発し続けることで、ブランドへの強固なエンゲージメントを獲得できていること。
◆私たちが展開するビジネスには「フィットする暮らしをつくろう」という価値観が必ずコアとして存在している。「他の誰かと比較するのではなく、自分の生き方を自分らしいと感じ満足できること」それが「フィットする暮らし」の定義。
◆そしてそれを自分のライフスタイルに取り入れたいと思える魅力的なクリエイティブで表現すること。その「価値観×クリエイティブ」の掛け合わせにより、顧客を魅了する世界観が形成される。
◆D2Cは、顧客のライフスタイルにおける様々なシーンやニーズに応えるため、コスメ/キッチン/インテリア/アパレル/寝具/アンダーウェア/家具など、あらゆる(すべて)の商品を企画開発していく。そうやっていくことで、D2Cブランドとしてのプレゼンスを高めていく。
◆コンテンツパブリッシャーとしては、特集記事やコラムが読めるWEBマガジン、動画コンテンツ、ならびに各種SNSでコンテンツを発信。すべての媒体において、一貫した世界観に浸れる多様なコンテンツを企画制作し、それを届けるチャンネルを太く、純度を高く確保していること、そうすることでパブリッシャーとしての影響力を拡大し続けている。
◆理想は「1000万人に10回」買ってもらう。でもそれは社会構造的にも難しいし、「100万人」に向けられたものでされ届かないと思う。ペルソナ的にはもっとニッチを取りにいくイメージでコンテンツ制作をしている。
◆「テレビには出ない」というのが社内のルール。マスに向けた情報に価値はない。マスを見ている顧客はツイッターでネガなコメントすると、ブランド価値が無駄に傷つく。だから露出する努力ではなく「できるだけ知られない努力」をしている。興味ある人だけに届けばいい。お客様になりそうな人とだけつながる露出だけ選ぶ。
◆10回付き合ってもらえるからこそ、価値がわかるようになる。長く付き合ってもらえるという状況をつくることによって、1回2回失敗しててもよくなる。3割4割の打率でもいいってなる気がする。
◆ブランドが成功する要因は3つある。1は「売り方うまい」2は「プロダクトいいよね」3は「やる動機がいいよね」結局最後はぜんぶ大事なんだけど、1と2は外部要因が大きい。でも3に関しては、ここがいいよねってなると、プロダクト変わっても受け入れられる。コアコンピタンスは3。ここが大事だと思ってる。

◆でも3の「動機」については賢い人が頭で考えるとロジックとして同じ結論になってくる。じゃあどう差別化するかというと「内省」する。突き抜けるほど内省している。「自分がなぜこれをやりたいんだろうか」ということを、実際に仕事をしている人間がここに対して「何の迷いもないくらい腑に落ちる動機があって、その動機を堂々と言える状況になってる」レベルになると、自然にうまくいく気がする。だからここに、いかに時間とお金をかけれるか、ってところが大事。ただ動機があればいい、ではなく、その動機の種を磨き上げてどれくらい人に伝えられるレベルに育てるかってのはとても大事。動機をしょっちゅう変えてるようではファンはついてこない。
◆ECは基本的に広告で新規を獲得しているが、うちは世界観をつくることでお客さんに来てもらうことを念頭に置いている。
◆「そもそも人が一番楽しむコンテンツ」ってなんだろうって考えていて、例えば本屋さんに行くと雑誌で売れてるのは服とか車とか、ようは「プロダクト」の情報を伝えているコンテンツが売れている。コンテンツを「詳しく知る」ようなことを楽しんでいるんだと思う。それと同じで、ECサイトであっても「売るための情報」ではなく「楽しむための情報」を伝えたらどうだろうと考えたから、プロダクトのページは写真が多かったり、そのページを見るだけでも楽しめるような構成にしている。
◆もちろんECなので売れないと困るけど、それ以上に「物の情報を楽しく編集して読んでいただく」ということ自体に価値を置いている。なので例えば「10,000円」するプロダクトのページを作りこむのと同様に「250円」の商品ページも同様に作りこむ。それはそもそものコンセプトが「買わないけど読む人も楽しませる」だから。ページ当たりの収益性よりも、とにかく楽しんでもらおうと考えている。
◆コラムは一日5コンテンツくらい発信できるようにしている。スタッフに伝えているのは「自分が書きたいもの」は書かないでほしい。「自分が読み手として読みたいコンテンツ」を書いてほしいと伝えている。
◆もともとは「インテリア雑貨」でスタートしたから広告費をかけられない前提でスタートした。その中では「買うものがすでに明確な人」をターゲットにしてもAmazonや楽天には絶対に勝てない。じゃあ「まだ買うものが明確じゃない人」をターゲットにすればいいんじゃないか。この領域であればECであってもAmazonに勝てるんじゃないかってことではじまった。だから、

➀「買う気がない状態で訪問」
➁「何度か訪問」して関係値ができる
➂1年くらいして自分のタイミングで買っちゃう

みたいなカスタマージャーニーを描いた。
◆自分たちの本業は基本的には「買わない人を楽しませる」その結果、買っていただけるって構造になってる。会社としては2006年にはじめた。はじめは不動産の紹介事業。それは失敗して残った資本金150万くらいでスタートしたのが「暮らしの道具店」
◆ECとしては「ビンテージの家具」からはじめた。一点ものなので、海外まで買い付けに行く必要があったが、当時35歳で子供もいたのでこれは無理だと思った。だから海外で仲良くなった人が友達とか知り合い集めて、お金さえ出せば勝手に商品が仕入れられる仕組みを早々につくった。
◆18で高卒になってパートして28歳までフリーターしてた。昔から「そもそも」を考え続けてた。意味や目的がないことはできない人間だった。当時はインターネットのベンチャーが各業界で勃興してた。28歳で未経験であっても、入れるベンチャーがかなり多かった。そっからWEBの知見が付いてきたって感じ。
◆ダラダラしてるのに欲深い。サラリーマンとしては大成できないのはわかった。で「金持ち父さん貧乏父さん」を読んで、投資家になれと、でそのためにビジネスオーナーになれと書いてあって、素直にそうしようと思った。雇われるほうでは無理だから、雇うほうで一流になろうと思った。
◆経営の勉強は「異常に本を読んでた」幼稚園の頃から。物事の背景を考えて想像することが昔から好きだった。「これどうやってできてるんだろう」とか。どうやってなりたってるんだろう、とか生まれつき好き。飲食店であれば、回転率とか売上原価とか、利益とか、そーゆーことをいっつも考えてた。あとは歴史が好きなことも大きい。そーゆーことが繋がってる気がする。
◆ベンチマークしてるのは「ほぼ日」。そのほかもメーカーがライフスタイル雑誌をつくっている事例はたくさんあった。それをWEBに転換したらどうなるんだろうかと考えていた。
◆よくイメージしているのは「ディズニーランドのお土産屋さん」。例えばそのお土産やさんが舞浜駅にも支店があって、20%OFFとかで販売したとする。そっちで買う人もいると思うけど、けっこーなお客さんが「ランド内で買いたい」と思うはずなんですよね。なぜかというとそれは「物」がほしいわけじゃなくて、「そのときの思い出を持ち帰るため」に買ってると思う。60人くらいの会社なので、日本中のすべてのニーズを満たす必要がない。だからランド内で買いたいって人だけを相手にしてても十分成り立っている。
◆ひとりひとりが自分の言葉で語れるコンテンツ制作は難しい。だから社内で基本的に育てていってる。なので採用に命をかけてやってきている。「採用8割×教育2割」どちらかというと一次面接に出たい。いい人を取り漏れることが一番もったいない。
◆コンテンツ制作のチャネルを増やしているのは「遊びに来てくれる人を増やす」ため。
◆メディア化に向けて舵を切ったきっかけは、利益が残らなかったから。最初は年商1億くらいいったけど、利益がほとんど残らなかった。当時売り上げの15%くらい広告に費やしてたから。今ならやめれるからやめたいなーと思った。そこから「どうやったら広告費をかけずに利益だせるかなー」と考えて、メディアに至った。
◆広告を払う側と広告をもらう側のメディアの違いは、自社に都合のいいコンバージョンを設計しているプロダクト(購入とか予約とか)は広告が必要。でも「来る人全員にお土産があるサイト」ってのは広告費をもらう側。ECサイトではありながらも、きた人全員にお土産をあげれるようなメディアになれれば、広告費なしになるだけではなく、ゆくゆくは広告費をもらえるようになれるんじゃないかってことを2011年に考えた。
◆「WEBマガジン」と「ECサイト」はなにが違う?「画像とテキスト」って部分は同じなのに。編集方針が違う。WEBマガジンは「おもしろくする」ことが方針。ECは「売ること」が方針。だから安い商品であってもちゃんとPRする。
◆レイヤーの低い合理性は(点)無視。たかが知れてる。全部のページをおもしろくする(面)ほうが圧倒的に合理性はある。あと商品ラインナップを減らした。だからひとつずつを強くできる。「商品数の多さ=売上の高さ」じゃない。
◆toBをやる価値ってのは、自分たちの条件の中だけでやるなら価値がある。それは大手のブランドを味方にできるってこと。toCのお客様を喜ばせようってところが合致してるからブランディング支援ができる。
◆いきなりリスク取らない。新しいカテゴリーをはじめるときは「あえて」PBはやらない。それはリスクでかいから。先にバイヤーとして、仕入れて売ることで、実際になにがどう売れていくのかを徹底的に分析する。そのカテゴリーの知見がしっかりできた上で、PBを大きいロットでつくる。
◆「フィットする暮らしをつくろう」というのは、「幸せな暮らしをつくろう」とか「豊かな暮らしをつくろう」でもいい。でも「幸せ」とか「豊か」というのは概念。概念は人によって定義が全然違う。概念は好きじゃない。でも「フィットしてるか」はフィジカルの領域。自分の物差しで実際に感じられるもの。「フィジカル」というのは例えば、お気に入りのシャツがあったとして、それを着て出かけてるときってフィットしてる感覚ありますよね?そういうときにどうなるかっていうと、人のシャツが気にならなくなる。「あの人のシャツいいな」とか「あの人のシャツ高そうだな」とか。自分は自分のお気に入りのシャツ着ていることに満足している。そんな感覚が「暮らし」まで感じれる状態ってのが「フィットする暮らし」。そしてそれは自分たちがそう感じたいと思っている。スタッフ全員が「誰かのフィットする暮らしをつくる」ことを通して、自分たちがフィットする暮らしを過ごせてるか、がとても大事。
◆物事の抽象度をどれくらい上げて考えられるのかが大事。結局レイヤーを上げて抽象度を上げていくと、違うものに見えていたものも同じになるし、極論「人間とは何か」になる。そういう抽象度で捉えると、プロダクトもWEBマガジンも、映画も、ぜんぶ同じ。目的に対してどう伝えるのかという手段が違うだけ。例えば社員とお客さまとの線引きについても「世界観なり思想のコミュニティー」として見たときに、あくまでもコミットメントの濃淡だけの話。これはよく宝塚を例に言うんですけど、宝塚好きなひとって、最高のコミットメントは「自分の娘を宝塚に入れたい」ですよね。お客様としての関わりの最上級の場所として「会社」があって、その場所が内側から見ても外側から見ても一番幸せそうな場所であると、それは求心力の源泉になるので。だから「最高のコミットメントをもって入社した社員が、最高に幸せになってないといけないな」と考えている。
◆いろんなことにがめつく挑戦してすべてうまくいってるのは、コンテンツつくること自体(売れる前に楽しんでもらう)が本業だと捉えているから。KPIがもしあるなら、いま来てくれているお客さんの可処分時間をすべておさえるというのが基本戦略。だから動画、音声、インスタなど全部やる。お客さまが必要としているタイミングで、必要なコンテンツがちゃんとある状態を目指している。
◆「管理」はしてないし「目標」もない。営業でさえ数字もってない。でもメンバー全員が「卓越したプロジェクトに関わっている」と思っているし、もっとよくしたいと思ってる。組織としてそういう空気感とか文化を形成している。そのために必要なことが、BtoE(社員)。必要な母集団に対してダイレクトでコミュニケーションをとれている状態が前提として重要。それは企業のブランドがあってはじめて成せること。だから採用は基本的に自社サイトのみ。世界観をつくることで「クラシコムでどうしても働きたい」という母集団をつくれているかが大事。ジブリとほぼ日と似てると思う。年間で1000人くらい応募があって、10人くらい採用する。年に二回の一括採用で一気に採用する。中途で。そのプロセスは3カ月かかる。だから他社と比較して、ってのが無理。だからこそ中途であっても新卒と同じような純度の高さを実現できる。あと同期の概念があることはとてもいいこと。
◆北欧暮らしの道具店が目指す最高の目的は「ない」。いまはビジョンというよりも、責任感。自分たちが生み出したものが、世の中の人に受け入れてもらえてること自体が幸せなことだし、社会がいらないというまではやり続けたいと思っている。でも社会がどんどん変わり続けていくから、自分たちのプラットフォームもどんどん変化させていかなければならない。
◆とはいえ「フィットする暮らしをつくる」という「思想」はもっているので、それに必要なすべてをやろうとは考えている。それはぼくらの世界観と同じお客様がほしいプロダクトがあるなら、それは柔軟にやっていく可能性はある。それがじゃあ「やりたいか」って聞かれるとやりたいわけではないけど、やる必要があるなと思う。
◆バリューは3つ。➀センシティブ➁チャーミング③オルタナティブ。センシティブは敏感さ。お客様の求めるものを察知する力は大事。センシティブな人が勇敢になるとチャーミングになる。社内では結構体育会系の文化。オルタナティブな成果を出せるよね。→バリュー三つにつながりをつくってる。センシティブな人が乗るモビルスーツをつくるのが会社。ガンダムもエヴァも、主人公は繊細な人。
◆内定してから入社するまでにしてほしいと伝えているのは「内省」してほしい。センシティブであるためには「自分の感覚を自分で認知できている」必要がある。自分がいま不快に感じているとか、逆に自分が気持ちいと感じているとか、そういうことがわからない人に「我々の仕事は難しい」んですよ。自分の感覚を「輪郭をもって感じられる」ということは、どの職種であっても必ず必要。だから勉強しなくてもいいから、自分史書いてみってアドバイスしてる。生い立ちでなにがあって「何を感じてきたのか」ということ。僕たちが重要にしているセンシティブでチャーミングな人っていうのは、まず「自分と向き合う勇気」があって、「自分が感じていることをごまかさずに認識できる」というのが必要だから、自分史を書いて見せてよっていうのはよく言ってる。会社にどう貢献するのか、の前に自分と向き合ってからかな、と思う。
◆数字に関してみているのは、売り上げが上がらないことじゃなくて、上がる売り上げに対して準備ができていないこと。なので、一番困るのは「売り上げが上がって下がること(固定費も上がっているから)」と「上がったときの準備ができていないこと」の2つ。どれくらい売り上げが上がるのかが正確に予測できてないと準備ができない。
◆「健やかな組織」をつくりたいと考えている。そのために必要なことは「人を入れ続けること」そのためには人は増えていけばいいと思う。あと会社と事業に対して思うことは、伸びれる事業に対しては伸びるところまでは伸ばしてあげること。子どもみたいに。数字の目標を持つ必要はない。状態の目標をみんなで共有しているし、それは弓道の言葉で「正射必中」とよく言う。正しいフォームであれば必ず当たる。だから目標を設定しなくていい。PLの構造が売り上げの何パーセントって決まってる。その構造さえ決まれば、目標を立てる必要はそんなにない。